『ピープルウェア』にみる人間観~人は本質的に怠惰な存在か
こんにちは、まめちです。
今日は『ピープルウェア』という本の話をします。
◆トム・デマルコ、ティモシー・リスター『ピープルウェア』
最近、1週間に1章くらいのペースで、女子会()で本書を輪読しています。
本書は、本来はプログラマやSEのプロジェクト・マネジメントのための本なのですが、ホワイトカラーの職業一般に共通する知見が多く、大変勉強になります。
そんな本書を読んでいて、ちょっと思ったことを書きます。
『ピープルウェア』の人間観
本書には、
「担当者をあれこれとせき立てて、働かせることはできても、創造的で、工夫に富み、思慮深い仕事はさせられない」(P8)
「(部下を)信頼して仕事につけたからには、その人から自分(管理者)を守る手段を講じる必要はない。すべての部下は信頼できる仕事をしているのだ。信頼できず自主性を与えられないような人は、管理者の役には立たない」(P187)
…などの記述があり、
「人間は、特段管理をしなくても、自発的に、誠実に職務を果たそうとする。それが人間の天分である」
という著者の人間観を見て取ることができます。人間の自由を尊重した、性善説的な人間観といえるでしょう。
一方で、『証券会社の「儲け」の構造』というテキストがあります。
◆三田哉『証券会社の「儲け」の構造』
本書は、本来は証券会社が手掛けるビジネス(のほんの一部)を解説した書物なのですが、たまに描かれる証券会社の職場の雰囲気の描写が非常に参考になります。なかでも、部下を「詰める」管理、すなわち絶え間なくプレッシャーを与えつづけ、会社が示すノルマを達成するように仕向ける管理手法を導入している背景を説明しています。
それは、
「人間は安きに流れる生き物である。ゆえに、常に重圧を与え続けないと必ずサボる」
というものです。この考え方は、『ピープルウェア』の推奨する「自由主義的・性善説的な人間観」と対極をなす「権威主義的・性悪説的人間観」といえるでしょう。
性善説vs性悪説
部下の管理手法として、優れているのはどちらでしょうか?
これは組織の形態やカルチャーによって多種多様であり、正解の出ない論争なのかなという気がします。
営業の仕事もプログラマの仕事も経験したことのある私の経験からすると、『ピープルウェア』の推奨する自由主義・性善説的な組織カルチャーのほうが望ましい気がしますが、
いざ管理する側にまわると、権威主義的・性悪説的人間観に基づいたマネジメントをするかもしれません。
ただ、「自分がされて嫌なことを人にするな」という自らの行動原則に照らすと、いつか部下を持った時は『ピープルウェア』的な、部下の自主性を最大限に尊重したマネジメントをしたいと思います。
◆関連文献:
◆トム・デマルコ他『アドレナリンジャンキー プロジェクトの現在と未来を映す86パターン』
アドレナリンジャンキー プロジェクトの現在と未来を映す86パターン
- 作者: トム・デマルコ,ピーター・フルシュカ,ティム・リスター,スティーブ・マクメナミン,ジェームズ・ロバートソン,スザンヌ・ロバートソン,伊豆原弓
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2009/10/22
- メディア: 単行本
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- 作者: Jr FrederickP.Brooks,Jr.,Frederick P. Brooks,滝沢徹,牧野祐子,富澤昇
- 出版社/メーカー: 丸善出版
- 発売日: 2014/04/22
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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◆マックス・ヴェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』
◆関連ツイート
仕事を選ぶ際は、仕事内容で選ぶのではなく、「どちらのタイプが自分に向いているか」を考えたうえで、まず組織内容の吟味・検討から始めたほうがいいのかもしれない。 https://t.co/nqLZ9FuYNm
— まめち (@m0mch1) 2017年4月20日
今日はこの辺で。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
青年将校と「純粋まっすぐ君」
こんにちは。まめちです。
昨日「終戦の詔書」と「日本のいちばん長い日」の話をしたので、それに関連して軽く書きます。
『日本のいちばん長い日』では、終戦の閣議決定を覆すため、また「終戦の詔書」を録音したレコードを奪取するため、首相官邸や皇居などを襲撃する軍人の姿が描かれます。なかでも、ファナティックな純真さを背景に暴挙に及ぶ青年将校の姿が強く印象付けられます。
本書における「青年将校の純粋さ」に対する著者の目線は冷ややかで、まるで世間知らずの若者を突き放すようです。
漫画家の小林よしのり氏は、オウム真理教の教理を盲信し、反社会的行動を教理を根拠に正当化する若者のことを「純粋まっすぐ君」と評しましたが、一部の血気にはやる青年将校が採ったクーデターや玉音版の奪取という暴挙は、オウムの若者(古くは過激派学生)と似ています。
この「血気に任せて突っ走るあまり破滅的な最後を迎える若者」「そのような若者を『動機の純粋さ』から賞賛する態度」の期限は、江戸時代の陽明学に遡るそうです。
『動機さえ純粋であれば許される』という態度は、よく考えてみるときわめてはた迷惑かつ非合理的でありますが、こういう心情を賞賛するメンタリティは日本人の心のどこかに眠っている気がします。
今日はこの辺で。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
参考文献:
◆小島毅『近代日本の陽明学』
◆山本直樹『レッド 1969~1972』
「終戦の勅書」を観に行ったお話。
こんにちは、まめちです。
「印象に残っている展覧会」の話です。
「終戦の勅書」御署名原本
竹橋にある国立公文書館で去年(2016年)の5月に実施されていた、「終戦の詔書」の現物展示が、直近観た展覧会としてはもっとも印象に残っています。
「終戦の詔書」とは
「終戦の詔書」は、ポツダム宣言を受諾し太平洋戦争を終結させることを表明した文書です。これを昭和天皇が読み上げたものが「玉音放送」として録音され、1945年8月15日正午にラジオを通して国内外の国民に向けて放送されました。
昭和天皇や閣僚たちが御前会議において降伏を決意し、玉音放送がなされるまでの24時間は、半藤一利により『日本のいちばん長い日』というタイトルでノンフィクション書籍としてまとめられ、のちに岡本喜八監督による同名の映画が製作されています。
私の好きなシーン
私はこの映画が非常に好きで、何度も観返しているのですが、中でもこの「終戦の詔書」を清書するシーンが一番好きです。
「詔書」は、本来ならば閣議決定を待ってから浄書されるのが普通です。しかし今回は、時間的余裕がなく閣議決定と並行して浄書が進められました。浄書の途中、何回か文言の修正が入り、書き直す余裕がなかったため、紙を削ったり、括弧を用いて字句を書き足すという方法がとられました。
第2項より。
「戰局必スシモ好轉セス」「敵ハ新ニ殘虐ナル爆彈ヲ使用シテ頻ニ無辜ヲ殺傷シ」が訂正箇所
普通なら「ありえないこと」
大企業や官公庁にお勤めの方ならわかると思いますが、今後何十年にわたって、組織による意思決定の証しとして保存される文章を修正する際、「上から紙を貼る」「括弧を用いて訂正する」ということは、基本的にはありえないことです。国家の意思決定を示す文章であらば猶更でしょう。それだけに、事態がいかに逼迫していたかを、この文書は雄弁に物語るのです。
そんな「歴史の生き証人」たる詔書の実物がガラスケース越しに自分の眼前にあることに深い感動を覚えました。「歴史」そのものと対峙している、という感慨です。また、そのような機会に巡り合えたらいいな、と思っています。
参考文献
◆『日本のいちばん長い日』Kindle版
今日はこの辺で。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
東京都美術館で開催中!ブリューゲル「バベルの塔」展を観てきたよ
こんにちは、まめちです。
今日はハブルの塔バベルの塔の話をします。
「バベルの塔」展全体の感想
東京都美術館で開催されている『ブリューゲル「バベルの塔」展』を観てきました。
ピーテル・ブリューゲル1世<<バベルの塔>>1568年ごろ 油彩、板 ボイマンス美術館蔵
目玉は上掲の、ピーテル・ブリューゲル1世による「バベルの塔」(1568年ごろ)です。
他には、世界に20数点しか現存しないとされるヒエロニムス・ボスの作品や
ヒロニムス・ボス<<放浪者(行商人)>>1500年頃 油彩、板
ブリューゲル1世の手がけた「バベル」以外の有名な作品
ピーテル・ブリューゲル1世<<大きな魚は小さな魚を食う>>1557年、エングレーヴィング
…など、ネーデルラントの作品を数多く大変することができ、大変満足しました。
「バベルの塔」を観た感想
意外と小さい
公式図録に原寸大の「バベルの塔」 のポスターが付録としてついているのですが、サイズを文庫本と比較してみると意外に小さいことがわかります。
一方で、この小さい絵の中には様々な人や物が描かれています。
石工、人夫、船の乗組員、煉瓦工etc...らせん構造の3層目には、赤い天蓋が見えます。建築現場を視察にきた「エラい人」でしょうか。
絵の中に緻密に書き込まれたキャラクターは、様々な人間模様や、物語の広がりを感じさせ、私たちの想像力を掻き立ててやみません。
「神の怒りに触れた」のはなぜか?
なぜ、バベルの塔は倒壊の憂き目にあったのでしょうか。
「天まで届く建築物を造ろうとした人間の傲慢さが神の怒りに触れたからだ」とされていますが、ではなぜ人工物が天にまで届いたら神が怒り出すのでしょう。神が「おうおう、お前らよくやったな」くらい言ってくれてもよさそうなものです。
まずは旧約聖書の、バベルの塔について言及されている箇所(創世記、11章)に、どう書いてあるのかを確かめてみることにしました。
11:1全地は同じ発音、同じ言葉であった。
11:2時に人々は東に移り、シナルの地に平野を得て、そこに住んだ。 11:3彼らは互に言った、「さあ、れんがを造って、よく焼こう」。こうして彼らは石の代りに、れんがを得、しっくいの代りに、アスファルトを得た。
11:4彼らはまた言った、「さあ、町と塔とを建てて、その頂を天に届かせよう。そしてわれわれは名を上げて、全地のおもてに散るのを免れよう」。
11:5時に主は下って、人の子たちの建てる町と塔とを見て、
11:6言われた、「民は一つで、みな同じ言葉である。彼らはすでにこの事をしはじめた。彼らがしようとする事は、もはや何事もとどめ得ないであろう。
11:7さあ、われわれは下って行って、そこで彼らの言葉を乱し、互に言葉が通じないようにしよう」。
11:8こうして主が彼らをそこから全地のおもてに散らされたので、彼らは町を建てるのをやめた。
11:9これによってその町の名はバベルと呼ばれた。主がそこで全地の言葉を乱されたからである。主はそこから彼らを全地のおもてに散らされた。
これを読んでもよくわからないのですが、英文で読んでみると、何となくわかってきました。
Then they said, “Come, let us build ourselves a city, with a tower that reaches to the heavens, so that we may make a name for ourselves; otherwise we will be scattered over the face of the whole earth.”
Genesis 11 - The Tower of Babel - Now the whole - Bible Gateway
「それから民はこう言った。『さあ、力を合わせて街を作ろう。街には天界に届くほどの塔を作って、我々の名を世に知らしめよう。さもなくば、我々は全世界に散らばってしまうだろうから』」 (まめち訳)
"the heavens"は、神々の住まうところという意味になるようです。要は
「オドレらワイの被造物の分際で、ワシの家を覗き込みに来ようとはエエ根性しとるの、その腐った性根叩き直したる」
という風に神が理不尽にキレ出した、という事のようです。
旧約聖書の神はしょっちゅう理不尽にキレ出す、と佐藤優氏の本に書いてありましたが、要は合理的な理由はなく、神の機嫌を損ねてしまった、ということになるのでしょうか。感情的にキレ出すタチの悪い上司みたいで、困ったものですね。
「バベルの塔」はなぜ海沿いに建っているのか
ひと目見てわかるように、バベルの塔は海に面して建っています。塔の隣には港が据え付けられ、多種多様な船が係留されています。これらは何の船なのでしょうか。
私の想像では、バベルの塔に必要とされる建築資材その他もろもろの物資を運搬する船ではないでしょうか。
今も昔も、大量の物資を低コストに運搬する最良の手段は水運だから、というのが推察の理由です。
バベルの塔の主要な素材である煉瓦は、絵の左手奥に描かれているレンガ工場で作られ陸送されているようですが、おそらくその他の建築資材(木材、モルタル、人夫の食料や日用品など)を運搬するのに船を使っていたのではないでしょうか。
とするならば、この超巨大建造物を海の近くに建築するのはきわめて合理的な発想といえるでしょう。ブリューゲルがそこまで意識していたかは分かりませんが…
※ちなみに、ブリューゲルは非常に卓越した船に関する知識を有していたそうです。単にブリューゲルが船の絵を描き込みたかっただけかもしれません。
参考文献
◆ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展公式ガイドブック
ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展公式ガイドブック (AERAムック)
- 作者: 朝日新聞出版
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2017/04/07
- メディア: ムック
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◆『アスタロト』
『パタリロ!』 『翔んで埼玉』などで有名な魔夜峰央氏による作品です。ボスやブリューゲルの絵に出てくるような怪物に似たイメージのキャラクターが多数登場します。これらの画家の世界観が好きな方には非常にオススメです。
◆『コンテナ物語』
- 作者: マルクレビンソン
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- 発売日: 2013/09/10
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※船は何を運んでいるのか?には本書からヒントを得ました。
今日はこのへんで。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
Kindleで大幅値下げ中の、100円シリーズ本が秀逸なのでご紹介します。
こんにちは、まめちです。
「Kindle本大幅値下げセール」で、期間限定で100円で売られている本が非常に秀逸なので、何冊かご紹介します。
※値段はすべて2017年4月18日現在のものです。
※2017/4/22追記:本セールは現在終了しています。
金融・経済・経理
◆『経理の教科書1年生』
◆『簿記の教科書1年生』
◆『カラー版 一番やさしい資産運用の教科書』
◆『オールカラー ”ギモン”から逆引き!決算書の読み方』
オールカラー “ギモン”から逆引き! 決算書の読み方 オールカラーでわかりやすい!
- 作者: 南伸一
- 出版社/メーカー: 西東社
- 発売日: 2016/03/03
- メディア: Kindle版
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不動産関連
◆『超入門 不動産の教科書』
◆『いちばんやさしい建築基準法』
自然科学
◆『子どもも大人もたのしく読める 算数&数学ビジュアル図鑑』
◆『あの雲なに?がひと目でわかる!散歩の雲・空図鑑』
歴史
◆『マンガでわかる 今を読み解く世界史講義』
どの本も内容が充実しており、100円は破格の安さです。
(本来は1,500円くらいで売られている本が大半なので、当然といえば当然かもしれませんが)
この機会に、普段読んだことのないジャンルの本を読んでみるというのはいかがでしょうか?私は、全く知識のない栄養素関連の本を買ってみました。
◆世界一やさしい!栄養素図鑑
買った本がもしつまらなくても、たったの100円、缶ジュースより安いのです。何か一つでも学びがあれば、十分元が取れるのではないでしょうか。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。