まめちの本棚

自分が「面白い」「皆さんに知ってほしい」と感じたことを書き記すブログです。※投稿内容は個人的な意見の表明に過ぎず、所属する組織の見解を反映するものでは一切ありません。

敵討

敵討 (新潮文庫)敵討 (新潮文庫)
(2003/11)
吉村 昭

商品詳細を見る

吉村昭の短編小説集。タイトルの通り、「敵討ち」に関する2つの短編が収録されている。

前者は本書のタイトルにもなった「敵討」。父・伝兵衛を無頼漢・茂平次に殺害されたことを知り、子の伝十郎が伝兵衛の弟子・典然とともに茂平次を討つ旅に出る…という話。

敵討ちについて書かれた本を今まで読んだことがなかったので、色々と新しい知識を得られ新鮮だった。例えば、一度敵討ちをすると決めたら、目標を果たすまで主君の元を一旦去らなければならなく、従って禄をもらえなくなること。このせいで残された家族は貧窮の憂き目に遭うことが多かったという。

また、必ずしも敵討ちに出たからと行って本願を遂げられるとはかぎらず、数年・数十年かかることはざらで、やっと見つけても返り討ちにされることも多かったとのこと。敵討ちって楽じゃないんだなぁ。

後者は、政敵に謀殺された父と母の敵を討つ臼井六郎の話。

時は幕末。秋月藩内の勢力争いの渦中にあった六郎の父・亘理は、寝込みを襲われ母・清とともに惨殺されてしまう。事件に対する藩の調査はなおざりで、あたかも亘理が主君に背いたため誅殺されたかのような扱いを受ける。生き残った六郎は、下手人・一瀬を討ち取ることに執念を燃やし、剣の修行に励むが…といった感じのあらすじ。

六郎は一瀬を討つ機会をさぐるも、なかなか好機は訪れず悶々とする。そうこうしているうちに時代は江戸から明治へ。六郎は東京と改名された江戸にてついに一瀬を殺害し、親の仇を取ることに成功する。ところが、敵討ちは新政府の法令化では違法行為とされており、六郎は殺人犯として逮捕され、終身刑に処されてしまう。

とはいえ、まだまだ江戸時代の気風が根強く残っていた明治当初のことなので、六郎は刑に服すものの親の仇を討った行為は英雄的であるとして世間から高く評価される。そのような機運もあってか、大日本帝国憲法発布に伴う恩赦令で六郎は減刑され、刑期を終えた後出所し、妻をめとり、饅頭屋の主人として平穏のうちに一生を閉じる。

江戸時代から明治時代への変化は全てが一瞬のうちにドラスティックに変化したと想像しがちだが、決してそうではなく、江戸時代の記憶や慣習が根強く残っていることがわかる。時代は変わっても人々の心はそう変わらないものなのだろう。

どちらの作品も、史実にこだわる吉村氏の小説らしく、主人公が悲願を遂げるまでのストーリーが史実を交えきめ細かに描写されており、読み手の想像力をかき立てる作品となっている。