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【書評】葛西りいち『零戦少年』

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「国のためなんて一度も思ったことはない 

今だからいえるわしは 成り上がりたい その一心だけでゼロ戦の桿を必死に握った」

(Kindle版 ページNo.14より)

 

 

 

本書は、作者がゼロ戦パイロットであった祖父からヒアリングした、戦争中の体験談を元に描かれた作品です。

「祖父の体験を後世に伝えたい」という真摯な姿勢が伝わる、非常に優れた作品です。

 

読者にそのような印象を抱かせる、本書のユニークな点は、

主人公である筆者の祖父の「ゼロ戦パイロットになった動機」を、冒頭で紹介したように、非常に率直に描写している点です。

 

その理由は、主人公の生育環境にあります。

 

農家の11人兄弟の末っ子として生まれた主人公は、「ほぼカスのような扱い」を受けており、

「この田舎にいては兄たちにいいように扱われて終わる、海軍に入って出世してやる」という野心を抱き、

尋常小学校を出て国鉄職員となった後に予科練(海軍飛行隊予科練習生)を受験、見事合格します。

 

ゼロ戦パイロットの話を綴った話は世にたくさんありますが、

その殆どが「国や大切な人を守るため」「パイロットは格好いいから」という優等生的な動機が綴られています。

確かにそういう人もいたでしょうが、

実際は主人公のような、ギラギラした実利的な動機で軍隊に志願した人も多かったのではないでしょうか。

 

田舎の貧乏農家の子供が、食い詰めて、あるいは成り上がるために軍隊に入る…という設定は、

野村芳太郎監督・渥美清主演の映画「拝啓天皇陛下様」でも見られますね。

軍隊が、雇用の提供、あるいは貧乏人が成り上がるための役割を担っていたことを、これらの作品から読み取れます。

 

見事パイロットになった祖父は、上官・戦友の死や、マラリアに罹り死線を彷徨ったり、特攻隊に選ばれたりするなどの様々な過酷な経験を経て終戦を迎えます。

その間に繰り広げられるドラマの紹介は、本稿では割愛しますが、非常に胸を打つ内容であることを付言しておきます。

 

幅広い世代の人に読んでもらいたい一冊です。

 

今日はこの辺で。

最後まで読んでいただいてありがとうございました。