まめちの本棚

Twitterで書ききれない話題をこちらに纏めています。

【書評】前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』

スポンサーリンク

f:id:m0mch1:20170723084812p:plain

本書は、バッタ研究者である著者が単身アフリカに渡り、さまざまな艱難辛苦を乗り越え日本で職を得るまでの物語です。

ストーリーそのものは波乱万丈に飛んでおり、ユーモラスな文体も相まって非常に面白いものでした。ただし、それはモーリタニアという耳慣れない異国での滞在記としての面白さであり、残念ながら「バッタという生き物を研究することの面白さ」はイマイチ伝わってきませんでした。

研究者として生きることの過酷さ

本書を読むと、今の日本で研究者として「普通に」生活することがいかに困難であるかを伺い知ることができます。人並み以上の頭脳を持った人が、努力を積み重ねて博士号を取っても、その努力相応の安定的な生活を送ることができない…それが、我が国の研究者が置かれている立場であるようです。本書からは、我が国の若手研究者が置かれている、そのような過酷な立場に対する「恨み節」が透けて見えます。

(問題は、著者ではなくそのような環境なのですが)研究者を志す優秀な若者が彼の著作を読んで「それでも研究者になりたい」と思い続けるだろうか、という疑問が沸きました。彼らが「研究者ってハイリスク・ローリターンの割に合わない仕事じゃん」という印象を抱いてもやむを得ないのではないか、と思います。

もし、私の抱いた印象通り、「研究者は労力に見合わない仕事だなぁ」と思う優秀な若者が増えてしまうと、中長期的に我が国の国力を蝕んでしまうのではないでしょうか。

肝心の研究成果は何か

本書はモーリタニアでの苦労話と、日本で研究者兼作家としてデビューし、京都大学でポストを得るまでの苦労話がほぼ全てを占めます。前野氏のバッタ研究が具体的にどう素晴らしいのか、いかなる成果を挙げたのかがいま一つ理解できませんでした。どうやら「バッタの大量発生を抑制する画期的な方法を発見した」という話ではなさそうです。

(研究成果を理解するのは別著『孤独なバッタが群れるとき―サバクトビバッタの相変異と大発生 (フィールドの生物学)』の役割かもしれませんが)

「頑張れば夢は報われる」?

これは完全に好き嫌いの問題なのですが、本著からは「頑張ればなんとかなる」「ポジティブな発想を持ち続けることが大切」というメッセージが繰り返し発信されていてちょっと辟易しました。努力することやポジティブ・シンキングの重要性はある程度は私も首肯するところですが、前野氏が採ったような「死中に活を求める」的な行動が上手くいくのは偶然(=運不運)に左右されるところが大きく、万人の参考にはならないからです。

前野氏の本を読んだ意識高めのマネジメント()が「努力すれば何でもできる!できないのは情熱が足らないから!」みたいな言説を補強する材料として本書を引用したら嫌だな、と思いました。

まとめ

批判的なトーンの書評になりましたが、前野氏の研究にかけるひたむきな情熱や、一人の人間として悩み苦しみ、活路を見出していく生き様には共感するところが多く、総じて良著であると思います。研究者を志す若い方はもちろん、キャリア構築に悩むビジネス・パーソンが読んでも色々な気づきが得られると思います。

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)

 
孤独なバッタが群れるとき―サバクトビバッタの相変異と大発生 (フィールドの生物学)

孤独なバッタが群れるとき―サバクトビバッタの相変異と大発生 (フィールドの生物学)

 

 最後までお読みいただきありがとうございました。