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【感想】映画「大いなる旅路」(関川秀雄監督、1960年公開)

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映画「 大いなる旅路」関川秀雄監督、1960年公開)がとてもいい映画だったので、感想を書き記しておくことにした。

あらすじは下記の通り。

大正末期の盛岡。国鉄の機関士助手を務める岩見浩造は、親友の佐久間太吉だけが試験に合格したため荒れていた。しかし先輩の橋本機関士が雪崩に遭遇し機関車もろとも死んでしまい、機関車の安全運転に努めることを決意する。漁師の娘ゆき子と結婚し三男一女をもうけるが、長男は戦死、長女は親の反対を押し切って男と出て行った。次男は東鉄教習所へ行くが、予科練へ行った三男は東京へ向かい行方知れずとなってしまう。

引用元:allcinema.net

本作では、軍歌を筆頭に、「歌」を作中の要所で効果的に利用している点が印象深かった。

物語中盤。浩造(三國連太郎)の4人の子供が学徒動員で鉄道工場における労働に従事するシーンや、出征していく兵士を送り出すシーンは「露営の歌」をBGMに進行していく。


露営の歌

浩造の運転する列車が雪崩で止められてしまい、乗客の兵士に歩いて先へ進むよう促すシーンでは、乗客全員が「出征兵士を送る歌」を歌うシーンが登場する。主人公一家を含め、日本全体が戦争に巻き込まれていく雰囲気を効果的に演出している。


<軍歌>出征兵士を送る歌

予科練に志願した三男・孝夫(中村嘉葎雄)が故郷を発つシーンでは、「若鷲の歌」をBGMとして利用している。緊張した面持ちの三男、複雑な表情で煙草を吸う父、そして本心とは裏腹に今にも泣きだしそうな表情で万歳をする母・ゆき子(風見章子)。三者三様の複雑な心中を察すると胸に迫るものがある。


若鷲の歌(予科練の歌)【戦時歌謡】

終戦間もない1947年の「二・一ゼネスト」のシーンでは、「歩兵の本領」の替え歌である「聞け万国の労働者」を歌いながら行進する若者のシーンが映し出され、時代が戦中から戦後へと大きく転換したことが印象付けられる。


「聞け万国の労働者(メーデー歌)」

三國連太郎をはじめ、風見章子、高倉健(次男)といった昭和の名優の演技を多いに楽しめる。他にも、国鉄時代のレトロな鉄道車両や、実際の線路と車両を用いたという迫力ある雪崩事故のシーンなど、みどころ満載の映画である。ぜひご覧になっていただきたい。

 

大いなる旅路

大いなる旅路

 

 

以下雑感:

・「歩兵の本領」は非常に有名な軍歌である。おそらく誰もが歌えたであろうこの歌の「替え歌」として、労働者の権利獲得闘争を歌い上げる「聞け万国の労働者」を作詞した人はかなりのセンスの持ち主だと思う。

・「若鷲の歌」は、「日本のいちばん長い日」(岡本喜八監督、1967年公開)においても、首都に迫りくる米軍機を迎撃すべく戦闘機が出立していくシーンでも非常に効果的に用いられていた。

・キャストに梅宮辰夫の名があったので楽しみにしていたのだが、結局どこに出演したのか分からずじまいだった。あとで確認したところ、主人公の幼馴染の長男という配役であった。後のヤクザ映画のイメージとは似ても似つかない、爽やかな青年を演じていた。

・作品の冒頭で、浩造が当初機関助手として乗務する汽車は「国鉄8620型」である。機関士として運転する機関車は「D51」。功績賞を受賞した浩造が上京するために乗車した列車を牽引したのは電気機関車の「EF58」。娘に会うために名古屋に向かう際に載る「こだま」号は151系と、蒸気機関車から電車特急へと、浩造が国鉄に奉職した30年間のうちに、鉄道技術が長足の進歩を遂げたことが印象付けられる。

・当時の国鉄職員は55歳で定年退職らしい。うらやましいなぁ。