【書評】石井光太『浮浪児1945-戦争が生んだ子供たち』
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こんにちは、まめちです。
太平洋戦争が終結した月である8月には、なるべく戦争関連の本を多く読むようにしています。
そんな戦争関連作品の1冊目として手に取ったのが、本書『浮浪児1945‐: 戦争が生んだ子供たち』です。
孤児たちを襲った過酷な運命
「戦災孤児」とは、空襲などの戦災で家族との別離を余儀なくされ、孤児となった子供のことを指します。
太平洋戦争の終期、日本の主要都市は米軍の執拗な空襲に襲われ、数多くの民間人が命を落としました。本書の書き出しは、1945年3月の「東京大空襲」で家族を失い、上野駅に逃げ延びてきた元戦災孤児の身の上話から始まります。
大人ですら生き延びるのが難しかった時代、孤児たちを待ち受ける運命は過酷なものでした。寒さや病気、飢えに苛まれ、命を落とす子供が後を絶たなかったといいます。
生き抜いた子供を待ち受けた運命もまた悲惨なものでした。戦後勃興した闇市で職を得て、最悪の貧困から抜け出した子供もいましたが、ほとんどは満足な教育を受けることもないまま、スリやかっぱらいなどで日々を過ごしていくことを余儀なくされたといいます。
心に深い傷を負った戦争孤児
特に印象に残ったのは、このような厳しい環境に晒された子供たちが、心に深い傷を負ったまま生きることを余儀なくされたという事実です。
『浮浪児と呼ばれた子供たちは、焼け野原で決して言葉にできないような過酷な体験をしています。今の子が同じ体験をしたら、どれだけ心が傷つけられるかって考えたらわかりますよね』
『それでも子どもたちは生きていかなければなりません。(中略)昔の子は強かったっていいますけど、僕はそんな風には思いません。あんな過酷なことに耐えられる子なんて、ごくわずかなんです』(文庫版254ページ)
これは、精神病と判断された子供たちを入所させる施設である「有隣少年療護院」に保護された経験を持ち、のちに施設で働いた方の言葉です。
戦災孤児の殆どは、戦争で親兄弟を失うまではごく普通の家庭に生まれ育ち、家族から愛情を注がれて育ってきた子どもたちでした。そのような何の罪もない子供たちが、戦争によって運命を狂わされ、過酷な人生を歩むことを余儀なくされるという理不尽さ。
「戦争はもっとも弱いものに最大の災厄をもたらす」という、身もふたもない冷酷な現実を伺い知ることのできる貴重な作品だと思います。ぜひ、多くの人に読んでほしいと思います。
余談その1
本書は戦後間もないころの上野や浅草の街の様子や、「アメ横」の成り立ちについて詳しい記述があり、これについても読みごたえがあります。『東京DEEP案内』が好きな方は楽しんで読めるのではないでしょうか。
余談その2
『はだしのゲン』も戦争孤児を扱った作品ですね。私の記憶が正しければ、『はだしのゲン』に、孤児が米軍基地に盗みに入ったところ番兵に見つかり射殺される、というエピソードがあったかと思いますが、本書『浮浪児1945』にも同様のエピソードがみられます。
余談その3
本書の著者である石井氏は、色々な国や地域に取材を行い、弱者にスポットを当てたルポルタージュを何冊か著しています。私が読んだ中では、「イスラーム社会の性」を取り扱った本書が大変印象的でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。